*以下、日本経済新聞2020年5月26日版記事より転載
羽田の恵み実れ巣立て
農援隊、空港近くに農園
特殊な農法で付加価値の高いミニトマトなどを生産、栽培指導も行っている農援隊(島根県出雲市)は、今秋にも東京の羽田空港(東京・大田)の近くで農園の事業を始める。収穫した作物を「羽田ブランド」として育て、空港内の売店などに売り込む。首都圏の学生らに農作業を手伝ってもらうほか、国内外の農業従事者らに農法を学んでもらう場としても活用する。
農援隊と大田区の中小の製造業者が、2017年に共同して設立した「おおた農水産業研究会」が事業を行う。空港に近い天空橋周辺の約2000平方メートルの土地を借り受け、500〜800平方メートルのビニールハウスを3〜4棟建てる。このほか既存の建物を借り受け、植物工場を整備する。投資金額は4億円程度。
ミニトマトやイチゴ、薬草などを生産する計画。収穫はミニトマトが年5〜8トン、イチゴが同2〜3トン程度をそれぞれ見込む。地方への東京土産として羽田空港の売店で取り扱いを目指すほか、周辺の住民らを対象に農園でも販売する。農援隊は主にロイヤルティを受け取る。
農援隊が手掛けているのは無数のナノ(10億分の1)メートルサイズの穴が開いた特殊フィルムを使う「アイメック農法」。どうフィルムは水と栄養分は通すが、細菌やウイルスは遮断するので病害が発生しにくい。
また、ある程度、水分を通しづらいフィルムがあることで、作物にも好影響をもたらす。トマトの場合、吸収しようと非常に多くの細かい毛細根を張り巡らし、結果として効率的に水分や養分を吸収できるようになり、高糖度で栄養価が高くなるという。初期コストはかかるが、一般的なトマトより高く売れるという。
農援隊は出雲市でこれまでミニトマトを中心に栽培してきたが、羽田空港周辺の農地で新たにイチゴや薬草の生産にも取り組む。「イチゴは試験栽培をした結果、ミニトマトと同様に高騰度のものが収穫できそうだ」と小豆沢斉社長は期待する。
ビニールハウスの農場には、大田区の中小の製造業者が農業用に開発した様々な技術も取り入れる予定で、農業と工業がマッチングした日本の先端農法を世界にアピールする。屋内に設ける植物工場では、国内外の人々がアイメック農法を学ぶ場にしたい考えだ。
同農法は給水作業など自動化されている部分が多いとはいえ、それでも作物の世話をする人手が多少は必要だ。このため農作業を手伝ってくれる参加者を、首都圏の大学や高校などに呼びかけて募集する。
農援隊は2009年設立。出雲市でアイメック農法によるミニトマトなどの生産をしているほか、農業参入用の設備提供やコンサルティング事業を展開している。大田区の中小企業とは農業機械に関する勉強会でもともとつながりがあった。2019年にはアフリカのボツワナで日系企業に対してアイメック農法の技術指導を行った。2020年3月期の売上高は約2億円。