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*以下、山陰経済ウィークリー2018年10月9日版記事より転載

信用広がった「アイメック栽培」
逆境が社員育成に力入れる契機に

農業コンサルタントの(株)農援隊(出雲市下古志町)は、水や養分のみを通す特殊フィルムを使ったハウス栽培の技術「アイメック栽培」による異業種企業の農業参入支援が主力事業だ。全国55社と取引し、年商3億円にまで成長させた小豆沢斉社長(71)は、顧客獲得に苦労した逆境が社員の育成に力を入れるきっかけとなり、事業発展につながったと振り返る。

専門技術員として営農指導に当たった島根県職員時代の経験を生かそうと2009年、1人で農業コンサル会社を設立。合同会社(LLC)を経て翌年、株式会社化した農援隊の事業をスタートさせた。山陰両県では当時、農業コンサルはなじみが薄く、JAによる営農指導は原則的に無料。顧客獲得のため、差別化を図ろうと着目したのがアイメック栽培だった。

「今でこそ品質向上や病原菌汚染の防止といったメリットから普及していますが、開発元のメビオール(株)(神奈川県平塚市)は工学系のバイオベンチャーで、当初は有用性があるか半信半疑でした。それでも経営者が信用できる人物だったため導入に踏み切りました」

特約店となり、農業参入する地元企業への普及を目指したが、困難を極めた。技術の新規性は注目されるものの、導入は思うように広がらない。ようやく導入先を獲得しても、作物が腐敗するなどして十分な成果が出なかった。企業に出向く技術指導員を含めて社員は異業種からの転職組ばかりで、営農指導の経験や知識が不十分だった。

「顧客企業からの問い合わせも担当の技術指導員ではなく、私に集中するような状態でした。それではコンサル業に不可欠な信用力は高まりません。打開に向け、『指導を担わせることで能力を高める』方法で、改めて社員を教育することにしました」

行政の委託を受け、農業に関する職業訓練講座を開講。13年からはアイメック栽培を一体的に学べる計120時間の訓練カリキュラムを始め、いずれも社員に指導役を担わせた。必要な知識を習得させるため、自社の試験場で指導方法を手取り足取り教えた。農業技術の資格取得に対する給与の上乗せも実施したが、強調したのは「課題や悩みに寄り添い、解決に向けて精いっぱい取り組む」という姿勢の大切さだった。社員も士気を高め、指導技術も向上。取引先企業の事業が安定し、信用が広がり、新規顧客が増えるという好循環が生まれた。

「企業の柱は社員だと身を持って知りました。今でも自動車ディーラーなど畑の違う業種から中途入社した社員ばかりですが、『相手の立場に立った営農指導』という私の教えを守ってくれています。さまざまな顧客ニーズに対応できる社員の育成に一層力を入れていきます。